九州動物学院
 

「もっとこうすればよかった」・・私たちは日常生活の中で、よくこう考えます。それは時には後悔だったり、懺悔だったり。日々診察をしていてもぶちあたる問題の一つがこれです。
 ある日病院に連れてこられたマルチーズ。元気はあるが、食餌をとる度に吐くと言います。原因がわからないまま、転院してこられました。一通り検査をして みるも、触診・レントゲン共に異常なし。血液検査をしたら若干、腎臓値に異常は認められたものの、大した異常数値じゃないのです。バリウムを飲ませてみた ら、流れが少し悪い。念のため入院して頂き様子をみることにしました。

 しかし、吐き気は治まらず、次第にやせてきました。衰弱も見られます。考えられるのは「異物」を飲み込んでいることなのですが、確信がもてないのです。 バリウムの通過状態を見ても、完全閉塞ではない・・。ありとあらゆる手は尽くしましたが、もう「開腹」するより他に原因究明の手立てがない状態でした。
 飼い主さんには状況を全て報告し、開腹手術を勧めます。しかしながら「物的証拠」に乏しいため、飼い主さんはしぶります。気持ちはよくわかる。お腹を切 るということは、飼い主さんにとっては一大事だからです。私たちも五分五分である以上、それより強くは勧められない。にっちもさっちもいかない状況です。
 そうこうしながらマルチーズはますます衰弱していく。その姿に飼い主さんは一大決心をしました。そして開腹手術。やっぱり・・異物でした。細い糸が舌の 一番奥に巻きつき、そのまま腸まで下がっていました。当然あちこち癒着していて、腸の一部は壊死していました。腸壁を傷つけないように慎重に切除しました が、治療の甲斐なく今朝亡くなりました。助けられた命でした。「もう少し決断が早かったら」・・「もう少し確信が強くもてていたら」・・さまざまな思いが 交錯しました。ですが、「時遅し」なのです。

 飼い主さんに連絡。心の中には、若干飼い主さんを責める気持ちが起こります。ですがこれだけは絶対に「言ってはいけない一言」なのです。飼い主さんの決 断の遅れを責めたら気持ちはラクになるでしょう。状況説明にも一役買ってくれるかもしれない。ですがお互い「判りきっていること」。これを責め口調で言っ てはいけない。全ての感情を飲み込んで「手を尽くしましたが残念でした」と言わねばならない。これが医療関係者として身につけなければならない対処法の最 たるものです。

 医療に「100%」は絶対に存在しません。であるがゆえに、必ずこうした事例は起こります。その不測の事態にどう対処するかで、医療関係者の力量は問わ れます。起きてはいけないこうした事例も、「誰か(何か)のせい」にすれば、一生悔恨として残るでしょう。この痛みを「教訓」とするには、「自分ができた こととできなかったこと」を省みる勇気が必要なのです。痛くても、悲しくても、我がこととして受け止める。そうすることで、飼い主としても人としても成長 することができるのです。大切な動物の死を無駄にしないために、必要な勇気であると私は思います。