九州動物学院
 

先日、大けがをして入院治療していた小型犬が、無事退院しました。咬傷事故により内臓に重大な損傷を受け、瀕死の状態で運ばれてきましたので、飼い主さ んには80%難しいと告知していました。それだけに、飼い主さんはもちろん、咬んだ犬側の飼い主まで大喜びで、非常に感謝して下さいました。飼い主さんの 喜びに満ちた笑顔と言葉は、動物病院として、獣医療関係者として、精一杯尽くした日々が報われ、一番喜びを感じる瞬間です。

 逆に時期同じくして、同じくらい重篤な状態で運び込まれてきた犬は、治療の甲斐なく亡くなりました。交通事故により一部内臓が破裂していて、難しい手術 と懸命な治療の末のことでした。当然飼い主さんは衝撃を受け、自失呆然のまま亡骸とともに帰宅されました。しかし、初七日が過ぎた頃再度訪ねてこられ、 「一生懸命治療に当たって下さり、心から感謝します」と言われたのです。助けることができなかったという自責の念から、これもまた、飼い主さんの言葉に よって救われる瞬間でした。

 私たちは獣医療を通して、多くの動物たちの非常事態に出会います。その時々に、最良の治療を施し、最善の努力をする。大げさなことではなく、当然のこと であり、大きな使命です。しかしながら、私たちの治療行為は、対処療法でしかないのです。もちろん最高の獣医療で治療にあたりますが、残念ながらそれだけ では命は救えない。実は生死の明暗を分けているのは、動物たちの「生きたい」と思う本能であり、力強い生命力なのです。これは難しい言葉で『恒常性=ホメ オスターシス』と言います。生物の生理状態などが一定するよう調整しようとする機能のことで、動物に備わった自然治癒力です。獣医療は、この力に大いに助 けられているのが本当の所です。

 そしてもう一つの支えが、飼い主さんとペットの愛情による力です。瀕死の状態で入院しているペットを見舞う飼い主さん。横たわったままのペットに飼い主 は精一杯の思いを込めて呼びかけます。「頑張れ」だったり、時には、「良くなったらまた一緒に散歩に行こうな」など、絞り出すように呼びかけるその言葉が 思いがけない奇跡を呼ぶのです。力なく横たわったままであったはずのペットが、飼い主さんの元に行こうと立ち上がろうとする。どこにもそんな力など残って いないはずなのに、飼い主さんの気持ちに応えようと力を振り絞っているのです。
 また、予後不良と判断した場合、その旨を飼い主さんに告知し、希望があれば自宅に戻すことも珍しくありません。実はそこでも奇跡は起こり、好転する場合もあるのです。いずれの場合も、医学では証明できない、まさに生命の神秘です。

 私たちは日々、こうした動物の生命力を信じ、飼い主さんと一緒に闘っています。大切なのは、「諦めないこと」。生命の神秘にサポートされながら、頑張り続けることが大切なことなのです。