九州動物学院
 

私たち動物病院関係者が、日々の仕事の中で当たり前のように使っているのが、いわゆる「業界用語」。もちろんこれはチーム間で共有する言葉であって、患者さんたちに使うわけではありません。
ところが、動物病院にいらっしゃる患者さんも、業界用語に近い言葉をお使いになる場合が多々あります。きっと、動物と共に暮すうちに、病気や飼育管理に関する知識が増えてこられたのでしょう。

 ただ問題は、当たり前のように使われる用語の中には、間違った使い方もあったりすることがあります。例えば多いのが、「不妊・去勢・避妊」の間違いです。
 不妊手術とは人工的に不妊の状態にする手術で、不妊の総合的な用語です。それがオスであれば「去勢」、メスなら「避妊」となるわけですね。ところがなさ そうであるのがこの勘違いで、性別に関係なく去勢(避妊)が不妊用語だと信じ込んでいる場合があるのです。ですからたとえ飼主さんが「去勢(避妊)手術お 願いします」と言ってこられたとしても、性別の確認は必ず必要で、もし間違っていたのであれば、その場で正しく言い直してあげることも重要なことなので す。

 それから多いのが、新人の受付とベテラン飼主さんとの食い違いです。受付にきた患者さんはいつものように「カットお願いします」と言う。ところが新米受 付担当者は、「加藤さんですね」と受付けてしまう。また別の飼主さんが、「シャンプーお願いします」と言ってこられたら、「散歩」だと聞き間違ってしまっ たり・・うそのようなほんとの話です。毎日そう言ったやり取りの中で仕事をしている私たちには絶対にないことなのですが、新人はこうした会話に耳が慣れて いないのです。当然、初めて耳にする新しい用語だったりもする。そんな時、このような絵に描いたような誤解が生まれるのです。

 そうそう、方言も時には重大なミスを引き起こします。私の病院にはよく県外からの獣医師が見学にこられます。そんな時、診察に立ち会うこともあるのです が、熊本弁飛び交う診察室内で、来訪者は目を白黒させています。「耳にばかがついたけん、とってはいよ」とか、「先生、体中につがあっとたい。どぎゃんし たらよかな?」などなど、宇宙人同士の会話のように、見知らぬ言葉のやり取りで診察が進行していくのです。これは何もよそ者だけに起こることではなくて、 私たちも日常的に使用する熊本弁であったとしても、理解できない言葉もあったりする。そんな時、お互いの思い違いによって、大きなミスにつながる可能性も 十分あるのです。

 こうしたミスをなくすには、もちろん言葉や状況に慣れることが一番ですが、もっと大切なことは、私たちが知っている専門用語とは別に、「飼主さんの表現 用語」があると知っておくことなのです。「ついうっかり」や「思い込み」、「見た目での判断」が、大きな事故を招き、それが守るべき動物たちの命さえも脅 かすことになるのだという危機管理は、常に最重要事項であると認識しておいて下さい。