九州動物学院
 

「子宮蓄膿症」という病気を知っていますか?子宮内に膿が溜まる病気で、ホルモンの乱れが原因で起こります。最近多発傾向にある病気の一つですが、多くは発情期に発症します。早期発見が非常に重要で、もちろん診断が遅れれば命にも関わる大きな病気です。

 治療には、抗生物質などを処方して子宮内の膿を軽減していく内科的な処置と、子宮・卵巣を摘出する外科的なものの2つがあります。薬による治療は対症療法になる場合が多く、次の発情期に再発する可能性も十分にあります。
 対して外科的処置の場合は、病巣そのものを摘出しますので、確実で、再発の可能性もぐっと低くなり、獣医学的にも経過は非常に安心です。

 ただし、そうは言いましても、飼主さんの気持ちは必ずしも「安全」が「安心」なわけではありません。特に手術ともなれば精神的にも経済的にも負荷がかか りますので、抵抗感を抱く方も多く、当然インフォームドコンセントが必要になります。特に女性の飼主さんであれば、子宮・卵巣の摘出に対する抵抗感はなお さらでしょう。

 そんな飼主さんの心情を理解して、なおかつ動物たちの命をより安全に救うためには、私たちの対応が非常に重要です。一回「NO」と言わせてしまったら、 なかなかその感情の逆転はしにくいもの。ですが、良く考えて見て下さい。元々、飼主さんが動物病院に来たということは、「助けたい」一心だったはず。想定 外にいきなり外科手術などと言われて一瞬ひるんでしまうことはよくあることなのです。
 そんな時は、まず「引いてみる」こと。まずは半日お預かりして点滴で様子をみます。また翌日も同じ。飼主さんの心情に配慮しながら治療を少しずつ進めて いくのです。そうこうしていますと、かたくなな気持ちが「必要なことであれば・・」と、緩み始める。驚きが躊躇につながることは間々あります。かわいい ペットが手術をしなければならない状況に驚き、ひるむ。この時に押すばかりじゃいけません。飼主さんがへそを曲げたり、ましてや病院に不信感を抱くような 強硬手段では何も解決しません。とっかかりの敷居は低いほど越えやすい。そうした心理的操作は、治療を有効にするためには必要と言わざるを得ないのです。

 物言わぬ動物たちが病院にやってくる時、その多くが「一刻を争う」状況にあります。そんな時、もちろん私たちプロは責任持って最善の治療に当たります が、その治療を「受ける・受けない」の決定権者はあくまでも飼主さんです。飼主さんは愛情で、私たちは医学をもって「動物の命を守る」ことにベストを尽く します。この共同作業で一番重要なのは、ゆるぎない信頼関係です。ただし、大切なペットの一大事に、飼主さんの心は大きく揺れています。そんな状況下で あっても、信頼を保つためには、コミュニケーション能力を駆使するしかないのです。いかに知識があろうとも、技術が高くとも、この関係が構築できなければ 治療の効果は半減します。命を守ること・・壮大にして尊いテーマに向かって、精進の毎日は続くのです。