九州動物学院
 

10月は動物たちの春・・繁殖期です。動物病院も、仔犬や仔猫の受診がどんと増える季節です。この季節の来院でもっとも多いのは、やはり飼主ビギナーさ ん。初めて家族の一員として迎えた仔犬・仔猫の飼育から給餌方法、これからの健康管理法など、ありとあらゆるお尋ねを抱えてやってこられます。育て方も、 給餌の仕方も、犬種によって、また個体ごとに全く違いますので、丁寧な指導を心がけています。

 ところが、この時期の来院理由でもっとも多いのが、「低血糖」。げっそりやせた仔犬子猫たちが、ぐったりした状態で連れてこられるのです。飼主さんは当 然のことながら状況を理解できないでいます。その狼狽ぶりから、指導通りきちんとめんどうをみていたことが伺えます。ではどうしてこのような状態になった のか。その答えは・・きちんと指導通りに管理したからです。

 生後間もない仔犬仔猫の授乳は、だいたい2~3時間おきからスタートします。離乳期から生後半年くらいまでは1日5~6回の離乳フードが必要です。1歳 になるまでは成長期で、この時期の栄養管理がその後の成長や生涯年数を左右するくらい重要なのです。仔犬を購入した時、ペットショップや販売者は、みなき ちんとこのような「飼育指導」をして下さいます。指導方法はまちまちですが、「仔犬だから様子を見ながらごはんをあげましょう」という基本は同じだと思い ます。でも「伝える言葉」が違うのです。例えばそれをあるショップでは、「朝晩5粒くらいから徐々にフードの量を増やしてみて下さい」と指導したとしま しょう。ビギナー飼主さんは、当然その通りに飼育を始めます。
 
 ところが、対象は機械ではなく生き物です。仔犬にしては動きの激しい子もいれば、ずっと眠ったままの子もいる。大きな子もいれば、やせ気味の子もいる。 食に対して意欲的な子もいれば、生まれつき食の細い子もいる。当然、その子の状況に合わせてマニュアルを変えてやる必要があるのです。
ところが、教えられたマニュアルを優先するあまりに、その子の状態に気づかなくなってしまうことがあるのです。明らかにやせすぎていても、「マニュアルを 守って育てている」という安心感が目を曇らせてしまうのです。気づいた時、仔犬仔猫はもうぐったりしている。慌てて動物病院に飛び込んでくるのです。

 販売者もビギナー飼主さんも、それぞれの立場で一生懸命だったはずです。でも「感覚」の違いが、命にかかわる重大な事故を招いてしまったのです。私たち はプロです。これまでこうした事例をたくさんみてきました。その度に思うのです。「その方々の視点に立った指導ができていたのだろうか」と。
プロの感覚は、微細な変化も見逃さないほど研ぎ澄まされています。かたや飼主さんは素人。その耳に届かないアドバイスであれば、役に立たないどころか、命 取りにさえなりかねないのです。たくさんの命が芽吹くこの季節に、業界用語ではなく、「共通用語」の大切さを改めて思いました。