九州動物学院
 

動物病院にやってくる患者さんには、いろんな方がいらっしゃいます。それぞれがさまざまな思いを抱いてペットを飼っておいでです。その方々を取巻く環境も、これまた様々。私たちにはそうした周囲にもきちんと配慮した仕事が求められます。
 
 そんな患者さんの中でも特に気を遣うのが、すごみのある方の場合です。常に物言いにも貫禄がありますので、診察室にも緊張が走ります。・ただ、飼主さん がどんなタイプであろうとも、ペットはペット・・何ら変わらないのです。対ヒトには強面であってもペットには非常に優しかったりする。そう。人に対しては 強固な態度を崩すことができない方でも、ペットには相を崩して「素」のままのご自分でいらっしゃる場合が間々あります。常に「ペットを診る」ことに集中で きる私たちでいられるよう心がけたいものです。

 また別の意味で配慮が必要なのが、ペットを失った飼主さんです。「ペットロス」ってご存知でしょうか。大切なペットを失って、心に喪失感を抱えてしまっ た飼主さんの精神状態を言います。ペットブームといわれて久しいですが、家族同然で暮してきたがゆえに、その喪失感たるや相当なもののはずです。ところが 社会全体がこうした価値観を共有しているわけではありませんので、社会とのギャップに悩み、受けた言葉に傷つき、さらに症状が進む場合もあります。

 こうした飼主さんを目の前にした場合、一個人が支えるのではなく、病院であればスタッフが一丸となって対応していかねばなりません。大切なペットを失っ た時、まずはその「死」を受け止める・・という段階から始めます。ところがこれが一番難しい。痛みのあまりその事実を信じたくないからです。その悲しみが やがては「もっとこうしてあげればよかった」という後悔になり、次の瞬間、「こうしてくれたらよかったのに」という、病院を含む周囲への攻撃に変わる場合 もあるのです。
 ただ、これこそがペットロス症候群のプロセスです。こうした一連の流れは、一つのことを乗り越えるための段階だと考えてあげられるスペースがあれば、痛 みを痛みとして受入れられる瞬間がくるのです。これは、動物の専門家として一つの仕事であると認識し、修得しておきたい技術の一つであると考え、対応して ほしいと思います。

 ペットと飼主。さまざまな環境で、いろんな関係を築きながら共に暮らしています。私たちはその架け橋となるアドバイザーなのです。学校で習ったような、 言わば「マニュアル」に書かれているような状況の方がむしろ稀で、ほとんどの場合がケースバイケースであると言っても過言ではありません。試行錯誤しなが らもその時々の応じた対処をしていき、ペットと飼主さんを良好な関係へと導いていく・・。こうした積み重ねがいつしか症例となり、「自分なりの対処法=マ ニュアル」として確立できる、唯一の道程だと思います。