九州動物学院
 

 「話をする」ということについてお話したいと思います。会話というのは相手がいて成立することで、情報を伝える手段の一つです。社会で生きていれば、そんな機会はたくさんありますが、コミュニケーションのやり方一つで、情報は大きくその形を変えます。
 例えばこんな事例がありました。先日、猫の飼主さんが診察にやってこられました。血尿が出たと言うのです。尿管結石による膀胱炎です。非常に多発してい る病気の一つですので、ここまで聞けばもうわかります。一通りの診察を終えて、飼主さんにはいつもと同じように、「結石による膀胱炎ですね。注射を打って おきますから薬を飲ませて、食餌を結石用のフードに変えて下さい」と伝えました。当然獣医師としては、結石疾患に対するセオリー通り飼主さんに指導したつ もりだったのです。

 ところが翌日。「血尿が治まらない」と飼主さんが訴えるのです。聞けばきちんと薬も飲ませている様子。念のため・・「フードは何を食べさせています か?」。答えを聞いてびっくりしました。「ホームセンターで尿管結石用のフードを買いました」というではありませんか。そうです、伝わっていなかったので す。
 私たちにとっては、「結石用のフード=病院の処方食」なのですが、一般飼主さんにとっては、イコールではなかった。きちんと伝えたつもりでも、結果がホームセンターで買われた予防のための食餌であれば、このコミュニケーションは失敗であったと言わざるを得ません。

 こんな時とっさに、「何でわからないのよ」と思ってしまうのですが、そうじゃない。本当に相手に伝わらなければ意味がないのです。コミュニケーションの 結果は、相手にしかありません。相手が理解して初めて「伝わった」ことになり、そこで初めて「コミュニケーションは成立した」ということになるのです。 「当たり前のこと」という認識が、コミュニケーションを阻害することがあるのだということを、しっかりと認識した事例の一つでした。

 コミュニケーションには、もう一つ法則があります。それは「伝え方」の問題です。私はボランティアの一環で、動物を伴って老人福祉施設を慰問する「動物介在活動」を行なっていますが、その中でこんなことを体験しました。
「今日皆さんとご一緒する●▲と申します。よろしくお願いします」と、当然のように挨拶から始めますが、お年よりは一向に反応を見せない。「わからないの かな?」と不安げにしていると、「ワンフレーズごとに区切って話しかけて下さい」と、職員の方から指導がありました。その通りに頭の中で、ワンフレーズご とに確認してから発するようにしたのです。途端に入所者の方は笑顔になり、親しく話しかけて下さるようになりました。たったそれだけのことなのですが、こ れもそうでした。情報の伝達方法は、相手によって変えなければならないことも、コミュニケーションの基本であると、改めて感じた次第です。

 コミュニケーションって難しいですね。でも決して臆病にならないで。大切なのは相手を思いやる気持ちを持つことです。そうすれば結果は自ずとついてきます。