九州動物学院
 

私の動物病院では、「水中トレッドミル(*注:水槽の底がベルトコンベアーになっていて、浮力を利用して運動ができる機械)」を導入しています。これは 動物が病中・後の機能回復を目的として利用したり、肥満傾向にある犬に過度な負担をかけずに運動させることもできますので、たくさんの方々にご利用頂き、 好評を得ています。リハビリそのものは皆さんもよくご存知、事故や病気の術後などの機能回復を目的として行なわれる治療行為ですが、こと動物に関しては日 本ではまだまだ未開拓の領域です。これからどんな風にこの分野が進化していくのか楽しみでもあります。

 もう一つ進化しつつある分野に、「アニマルセラピー」があります。日本訳で「動物介在療法」と言いますが、動物を介在させて行う治療行為のことです。あ くまでも治療の一環ですので、医療関係者が主導しなければなりません。また実施ごとにデータ記録も義務付けられているなど、非常に厳しい管理の下行なわれ ています。動物のリハビリ同様、日本ではまだ認知度も低いのですが、欧米諸国ではすでに浸透していて、かなりの臨床データも報告されています。

 そのアニマルセラピーの始まりが、実はリハビリだったのです。機能回復訓練には、個人差はあれど心身に苦痛を伴います。そんな患者さんを理学療法士(PT)の皆さんは、少しでも苦痛を軽減できるようにと励ましながら訓練を行なっています。
そんな厳しい訓練に、動物が介在することで驚くほどの効果が現れるということがわかってきたのです。例えば腕の機能回復を目的とした訓練でボール投げをし て頂くのも、相手がPTさんではなく犬だったとしたら?投げたボールを膝元まで持ってきて、また投げろと言わんばかりに喜んでいる姿を見たら、いやでも訓 練に身が入るでしょう。歩行訓練もしかり。歩行器に入って歩くことは屈辱的でも、犬を伴って歩くなら励みになる。こうした心理面の効果が、やがて成果と なって回復を早めたのです。これがアニマルセラピーの始まりだったというわけです。

 それから身体機能だけでなく、言語障害や心疾患などの回復訓練にも、動物の存在が鍵となるということがわかってきました。リハビリ同様、対動物となれば 心理的な壁がなくなるのです。言語回復訓練をするにも、相手が人ならば恥ずかしさが邪魔をしても、犬であれば「おいで」や「お手」がてらいもなく言える。
メンタルケアの現場では、いくら話しかけても返事をしなかった自閉気味の患者さんが、猫を介して会話ができるようになり、さらには、目の前に猫がいなくて も、猫の話を通じてきちんと対話ができるようにまでなったそうです。「人には決して垣根を崩さなかった患者さんが、動物が存在しただけで簡単にその壁を越 えて見せた。動物にはそうさせる力があるのでしょうね」と、担当医は言ったそうです。動物の神秘的な力は、こうしたいくつもの臨床例によって、医学的見地 からも証明されてきたのです。

 こうして医学の分野でも動物は活躍しているというわけですが、それでもまだまだ日本はその後進国です。先進国欧米ではさらに進化を遂げ、癒すだけでなく、負荷を抱えた人々の毎日を支える、欠くべき存在となって活躍しているそうです。
どんな変化が訪れようとも、その先端に獣医師や動物看護師の存在は不可欠です。人と動物の絆を確立するキーマンとなれるよう、未来を見据えた研鑽はこれからの課題でしょう。