九州動物学院
 

日常、動物病院にやってくるペットと飼主さん。いろんな形でつながっていますが、ある猫と飼主さんの物語をお話します。
 お父さんとお母さんに連れてこられた時、すでにその猫はぐったりしていました。聞けばずっと食欲もないらしい。目やにはひどく、熱は40度を超えていました。完全に「猫ウィルス性鼻気管炎」(注:呼吸器系の病気の総称)・・いわゆるカゼです。

 診察して「カゼですね」と飼主さんに伝えると、「カゼですかぁ!」と実に軽い。そう、確実に「あまり大したことじゃない」と受け止めた感じでした。とこ ろが猫にとってカゼは「重症」です。高熱による影響で食欲不振や脱水を引き起こし、死亡率も決して低くはありません。さらに「入院して点滴治療が必要で す」と告げると、今度は「猫が点滴ですか!?」と驚いていらっしゃる。
これはこの飼主さんが良いとか悪いとかの問題ではなく、動物に対する「認識の差」なのです。「人間と同じ」というところの感覚は、飼主さんによって大きく違うのが現実なのです。こうして「猫なのに」と、認識に明らかな格差を持った飼主さんと一緒に、治療は始りました。

 猫は、熱が上がったり下がったりしながら、一進一退を繰り返します。熱が上がりきったところで通常なら解熱剤を投与するのですが、ここでまずは最初の一 手。飼主さんに連絡を入れます。「非常に状態がよくありません。すぐに来て頂けますか?」ただでさえ深刻な電話なのに、それが夜中であれば尚更です。認識 に大きな格差を持った飼主さんも、血相を変えて家族で飛んできます。

 案内された入院室にいる愛猫は、横たわったまま動きません。予想もしていなかった重篤な状態を垣間見た飼主さんは、思わず覗き込み「頑張れ」と振り絞る ように声をかけます。すると、横たわったまま動かなかったはずの猫が「みゃぁ・・」とか細い声で、必死に飼主さんの元に行こうとします。その瞬間、飼主さ んに、大きな変化が起こるのです。そう、「何とかして助けたい」・・と、心の底から願うようになるのです。

 そんな飼主さんの願いが届いたかのように、猫は回復しました。死の淵から生還した愛猫を胸に、飼主さんも非常に嬉しそうです。その姿からは、以前の「猫 と人」などという隔たりは感じられません。その後も健診や予防注射などに定期的に来院され、健康を取り戻した猫と理想的な関係を保っています。
 この変化は何によって起きたと思いますか?この猫の、一生懸命生きようとする姿が心に届いたのです。そしてその物語を演出し、この関係をサポートしたの は私たち。動物の命を助けることが仕事であるのは当たり前ですが、人と動物の深い絆のコーディネーターであることも、当然のことながら私たちの使命です。 実にやりがいのある仕事だと思いませんか?