九州動物学院
 

本来、動物を含むあらゆる生物には、「生きるため」の力が備わっています。例えば、出血したら血が止まるように、擦り傷がかさぶたができて治るように、「生きたい」という生命力が「自然治癒力」となって身体を盛り上げてくるようにできているのです。
身近なところで言えば、よく犬が「はぁはぁ」と舌を出して呼吸している姿をみかけますね。これは体温調節のための行動で、犬に備わった本能の一つです。私 たちは洋服で体温調節をしますが、犬は大きな口をあけて呼吸回数を増やすことで体内の熱を放出しているのです。これも「生きるため」に与えられた力なので す。

 病院にやってくるペットたちは、もちろん予防接種や健康診断でも連れてこられますが、怪我や病気で受診する場合がほとんどです。それを治療や処置、投薬 で治すことが私たちの仕事であることに間違いはありませんが、厳密に言えば、「動物の自然治癒力=本能」に少し力を貸していると言った方が正しいのかも知 れません。こんな風に言いますと不思議に感じるかも知れませんが、毎日病院で診察に当たっているとそう思わずにはいられないことが多いのです。

  この本能のことを『恒常性=ホメオスターシス』(*注:生物の生理状態などが一定するように調節される性質のこと)と言います。全ての生命に備わった能力ですが、この能力を治療に利用することはよくあることです。
例えば、手術時に麻酔をかけますが、酸素を吸わせて生命を維持します。では麻酔を覚ます時はどうするのかと言いますと、逆に二酸化炭素を吸わせるのです。 強制的に呼吸をさせない方法をとることで、息を吹き返す。本能を利用して身体に反作用を起こすのです。元々備わっている「生きよう」とする能力を大切にす ることで、余計な負担を軽減した治療をすることができるというわけです。

入院動物を預かっていても、その能力を実感する場面が多々あります。どんなに懸命に治療に当たっても、盛り上がってこない場合があります。「予後不良」と 言いますが、こんな状態になれば、少しでも飼主さんの傍にいさせてあげたいという配慮から、自宅に連れてお帰りになることをお勧めしています。
ところが、自宅に連れ帰った途端に、回復の兆しを見せ始め、復活することも少なくないのです。「生きてほしい」と願う飼主さんの切なる願いに、ペットが 「生きよう」と応えた結果なのでしょう。医学的には証明できないような出来事を、この能力は起こすことができるのです。まさに命が起こした奇跡です。

 生命の神秘に敬意を表しつつ、その生命が元来持っている力を利用させて頂き、私たちは獣医療に当たっています。サプリメントもその一つ。生命力をほんの 少しサポートさせて頂くためのツのールに過ぎません。何しろ、ペットの一番の薬は、サプリメントでもなければ獣医療でもない。飼主さんの愛情なのです。本 能に愛情と言う良薬が加われば、命は奇跡を起こし得るのです。この奇跡を信じて、動物たちの強い生命力を引き出しながら、私たちは日々の診療に当たらない といけないと思っています。