九州動物学院
 

私たちはよく「絶対」という言葉を耳にします。何気なく使うこの言葉ですが、実は動物病院でも使用頻度の多い言葉の一つです。例えば診察時。「この薬を飲 ませて下さい」と言えば、「うちの子は薬が嫌いだから絶対に飲まないんです」と飼主さん。トリミング時、トリマーとお客様とのカウンセリングの中でも、 「うちの子爪だけは絶対に切らせないんです」と困った顔でお使いになる。まさにこの「絶対神話」は、飼主さんの心理に不動の地位を得ているようです。

こうしたお悩みの多くは、思い込みであることがほとんどなのですが、しかし飼主さんはあくまでも素人。思い込みであろうが何であろうが、その「絶対にでき ない」は許されるのです。ところが私たちプロには、絶対にあってはならないことなのです。薬はいやでも「絶対に」飲ませないといけないし、例え大暴れしよ うとも、爪は「絶対に」切らないといけない。爪を切ることも、薬を飲ませて病気を治すことも、報酬が発生している以上、絶対にしなければならないことなの です。

例えば動物が腎不全になった場合、一番の治療法は点滴です。アンモニアを体外に排出させるためには絶対に必要です。ところが数日間続けるうちに、当然のこ とながら血管が潰れ、針が刺せなくなってきますので、「血管が潰れて針が刺せません」と、動物看護師が訴えてくる場合もあります。では「刺せないから諦め るのか」・・できるはずありません。繰り返しますが腎不全には不可欠な治療であるがゆえに、「できない=死」を意味するからです。何が何でも絶対に点滴を しないといけないのです。

トリミングでも時々ありますね。トリミングをしたワンちゃんをお返しする時、「他はよかったんですが、顔だけは絶対にさせませんでした。今日は半分の 2,000円だけ頂いておきますね」。これはアリだと思いますか?ありがちな場面ですが、これもノー。プロトリマーが飼主さんから要望を伺ってお預かりを したのであれば、「顔はさせなかったから半額で結構です」はあり得ない。お客様の要望通りにしてお返しできないのであれば、報酬など頂いてはならないと思 うのです。

警察犬や盲導犬など、いわゆる作業犬(サービス・ドッグ)の訓練士は、訓練する犬を「絶対服従」させなければなりませんが、その訓練の基本として「おい で・つけ・すわれ・ふせ・まて」という「5大原則(コマンド)」があります。訓練士が一度このコマンドを口にしたら、それは絶対にさせないといけない。 「おいで」と言えばこなければならないし、「つけ」と指示したら、訓練士の左脚脇にぴたりとついて座らないといけない。これにも、一切の妥協は許されず、 できなかった場合は、もう一度やり直してできるまで続けます。これこそが「絶対服従」で、いつ・如何なる時もこの原則は不変です。

このように「マイナスの言葉に“絶対”をつけるのがアマチュア」ならば、「プラスの言葉にのみ”絶対“をつけるのがプロ」なのです。プロとしてこの方程式は絶対で、ほんの数ミリのブレもたわみも許されません。
この厳しさがプロとアマの違いであり、こうした絶対の方程式に基づいた仕事を提供してこそ、報酬も信頼も得られるのだと認識して下さい。そして、「絶対に できる」と思えば100%できるし、「絶対にできないと思えば100%、絶対にできません。プロアマ問わず、これが世の法則。正しい絶対神話の下、信念あ る動物のプロになってほしいと思います。