九州動物学院
 

「名医」という言葉を最近よく耳にします。テレビの特集番組でもよく取り上げられていますが、では「名医」とは何でしょうか。人医療にしても、獣医療にしても、「名医」と言われる基準はどこにあると思いますか?
皆さんは「白い巨塔」というドラマをご存知でしょうか。里見と財前という2人の学生が同じ大学で医師を志し、6年後同じ大学病院の医師に。ところが同じ志 の下医師になった2人だったのですが、財前は地位や名声を手に入れたいと願う、優秀だが野心に満ちた外科医となり、里見は終末医療に関心を寄せる心優しい 内科医となったのでした。2人の方向性も未来も全く違うものになっていく過程を描いた物語だったのですが、この2人、どっちが「名医」だと思いますか?

日本の医療水準は、診断でも医療機器においても世界トップレベルです。名だたる最先端技術を有した世界的な医療チームにも、日本人医師が何人も入ってい て、その中でもマスター的存在になっています。最近は、「ゴッドハンド(神の手)」と称され、テレビのドキュメンタリー特番でもよく紹介されていますが、 心臓や脳などのとても難しい手術に関しても、世界中から称賛を浴びている「ゴッドハンド」を持つドクターの多くは日本人医師です。

動物病院で考えてみましょうか。例えば年老いた犬がガンを患っていたとします。年齢やガンが発症している部位から診て、大変難しい手術になると思われま す。いくつかの病院を経て、私の病院にやってはきましたが、他の病院の診断同様、手術は困難極まりないものになると容易に想像できる状態でした。こんな症 例に出会った時、「取れるんじゃないかな」と、一瞬思うこともあります。もちろん確率的には助かる可能性は非常に低いのですが、獣医師として特異な症例に 向き合った時、多かれ少なかれ感じるチャレンジ精神が故に瞬間こう思うこともあります。
ですがこうした症例は、もはや技術だけの問題ではありません。高齢である犬のこと、また難しい手術に関わる費用の問題。そして老犬を想う飼主さんの心 情・・考慮せねばならない問題はいくつもあるのです。これらの問題や背景をトータルに判断してこそ、本当の獣医療です。これは大変難しい問題です。なぜな ら今申し上げた以外にも、命に対する倫理観や動物に対する意識など、さまざまな要素がからんでいるからです。

 ところが実は、これこそが日本人に名医が多いと言われるゆえんなのです。もちろん医療技術が高度であることは純然たる事実ですが、こうした感情や背景な どといった細かな部分に配慮することができる繊細さを持ち合わせた人種であることも大きな要素になっているからです。「イエス・ノー」だけでは解決できな いファジーな部分を考慮できること。そして、「見えない部分」を観て、感じて、聴いて、総合的に判断することができる感性を持っている民族だからこそ、 「名医」と言われるドクターが数多く存在する理由だと思います。
 現代社会には、高度な技術を必要とする難病は少なくありません。名医の存在が難病に苦しむ患畜たちの光となりますが、ただし医療は名医だけでは成立しま せん。なぜなら医療は「チーム」で行うからです。高度な獣医療技術にはそれを支える獣医看護師の存在は欠くことができません。飼主さんや患畜の心のケアま でもできる優秀な看護師が存在してこそ、初めて名医は名医として持てる技術の総てを発揮できるのです。このように今ここで学ぶ皆さん方の完成度が高ければ 高いほど現場は大きく違ってきます。高い志をもって精進してほしいと思います。