九州動物学院
 

ペット業界はますます栄える一方で、仕事の範囲・職種も確実に広がってきています。過去なかった業種・業態は数知れず、例えばこうした動物専門学校なども昔はなかったものの一つです。そうですね・・動物業界はここ5~10年で著しく変化を遂げてきたように思います。
最近はさほど珍しくもなくなりましたが、ペットシッターなる職業ができた時も驚きました。既成概念を越えた業種であったからです。その他にも、これまた最 近は珍しいものではなくなりましたが、「ドッグラン」もそう。現代社会の住環境ではとうてい叶えることができなかった「広い敷地をノーリードで自由自在に 走り回らさえること」ができる・・それも「安全に」を叶えたのがこの施設です。ペットはのびのびと走り回ることが許され、その自由で楽しげな姿に飼主も癒 される。また普段はなかなかできない「よそのわんちゃんとの交流」も、ストレスフリーな環境下では何となくスムーズにできている。そんな効果もあり、今や 県内にも大小合わせて10以上のドッグランがあるのではないでしょうか。

ところがそんないかにも幸せな環境の中で、起きてはならない事故が起きていることも事実です。そう、咬傷事故です。
先日も、ドッグランで遊んでいたチワワが、一緒にいた柴犬に咬まれ運び込まれてきました。瀕死のチワワの横にはパニック状態の飼主さんがいて、その横にはこれまた悲壮な顔をした柴犬の飼主さんがいます。そしてその背後には、神妙な顔をしたドッグランの管理者がいました。
チワワは腹部を咬まれていて、外傷はさほどひどくなかったものの、その状態から内臓損傷が疑われました。すぐに処置に入りましたが、腹腔内の出血がひどく、とても危険な状態です。できる限りの処置をしましたが、みなの願いも空しく1週間後に亡くなりました。

「安全・安心」と信じて疑わなかった環境下での事故です。チワワの飼主さんは、「どうして?」という思いにさいなまれ続けます。柴犬の飼主さんもそうで す。安全神話の下、ましてや「うちの子は絶対に咬まないから大丈夫」と心底信じていたはずです。この両者にとって想定外の事故は、決して癒えない傷となっ て、生涯深い悲しみをもたらすことになります。本当に悲劇だと思います。こうした事故の原因は、どこにあると思いますか?飼主さんは素人です。ただ動物が 大好きで、愛犬のことしかわからないのは当然です。だからこそ、「いくら平素は大人しくても、動物に絶対はないのだ」と言うことを、こうした悲しい事故が 起きる前に教えてあげなければいけない。特にこうした動物たちがたくさん集う施設管理者の責任は重大で、原因のほとんどがここにあると言っても過言ではあ りません。

動物たちは、私たちにとってもはやなくてはならない存在です。ただし、それは動物がその愛らしさと共に併せ持つ「本能」を知っていてこそ成り立つ関係で す。そんな動物たち本来のあるべき姿を知り、だからこそ潜む危険を事前に察知できるのは、動物のことを学び、経験を積んだ専門家だけです。素人の飼主さん にとっては想定外の咬傷事故でも、犬にとってみれば、そして私たち専門家からすれば「起こるべくして起きた事故」の場合がほとんど。こうした「あの犬とこ の犬は一緒にいさせない方がよさそうだな」と危険を察知する能力は、動物の心理を、そしてカーミングシグナルを熟知していればこその危機管理能力です。知 識に裏打ちされた感性をフル活用して、人とペットが安心して暮らせる環境を整える。私たち専門家のとても大きな使命だと思います。