九州動物学院
 

竜之介病院であった症例について話しましょう。

4歳のマルチーズが、元気がなくて吐くということで飼い主さんに連れてこられました。

いくつかの病院を回ったものの原因が分からず、竜之介病院にやってきたのです。 

 

こちらで改めてレントゲンをとって、バリウムを飲ませ検便などをしましたが、やはり分かりません。元気がなくて吐く、検査しても異常が見つからない といった場合、異物を飲み込んでいるということが考えられます。細いヒモや糸、ビニールなどは、なかなか検査をしても発見できないものですからね。

 

このワンちゃんの場合、さらに胃カメラをしても何もでてこなかった。
そこで私たちはお腹を開けて手術をすることを提案するわけです。 
けれどもこの 飼い主さんは「お腹を開けるなんて可愛そう」とおっしゃい、このワンちゃんをこの時手術することはできませんでした。

確実にお腹の中に異物が入っていると いうのは、私たちも言い切れないので強く飼い主さんを押せません。
私としては“開腹したい”が本心ですが、お腹を開いてみて何もなかったという可能性もあ るのですから、飼い主さんの言い分にも一理も二理もあります。

 

そして1週間後、このワンちゃんはほとんど動けなくなってまた病院に来ました。
即、お腹を開けたところ、腸から40cmほどのビニールの荷造り用ヒ モが出てきたのです。腸と癒着していて、非常に難しい状態になっていました。
診断する側にとって、ビニールのヒモなどは一番やっかいで、難しいものです。

 

結局、そのワンちゃんは次の日、亡くなってしまいました。
一週間前に開腹していれば助かった命なのです。
けれども、レントゲンにも写らない、胃カメ ラをしてもないという状態で、私は飼い主さんに「開腹しましょう」と強く迫ることはできませんでした。
最終的な判断は飼い主さんに委ねられるので、致し方 なかったことなのです。

大変かわいいワンちゃんでしたので、私もスタッフも悲しかった。
けれども、獣医師や動物看護師など病院のスタッフが、「一週間前に開腹するよう、説 得したのに」などと飼い主さんに対して言ってはいけません。
「全力を尽くしました」というのが精一杯です。
私たち病院スタッフが、「一週間早く開けていた ら助かっていたのに」などと飼い主さんに言うと、飼い主さんの心に一生消えない傷を負わせることになります。

飼い主さん自身が、自分が開腹を決心できなかったために死んでしまったと一番感じているのですから、責めてはいけない。飼い主さんの心のケアも考えなくてはならないのです。

 

私たちの言葉というのは飼い主さんにとって、非常に重たいのです。自分の立場というものをしっかり考えなければなりません